菊の大輪(於 庫裏前)
菊を采(と)る東籬(とうり)の下、悠然として南山を見る
陶淵明の詩「飲酒」の一節
[意味]我が家の東側の籬(まがき)のもとの菊を手折り、
ゆったりした心持ちで南の山を眺めている。
中国南朝の詩人陶淵明が、故郷に隠棲した日常を詠んだ詩の一節です。漢文訓読みにすると、散文では伝わらない詩人の清澄な心持ちが伝わってくると思います。
清澄さを際立たせているのが菊の花です。菊は気品ある姿ときよらかな香りによって長く尊ばれてきました。中国原産で、日本には平安時代の初め頃に入ってきました。王朝時代には中国文化の薫りを伝えるエキゾチックな花として珍重されました。
晩秋、菊の花が咲くと秋も終わりになります。菊より後に咲く秋の花はない、それもこの花が珍重される理由でした。
心あてに 折らばや折らむ はつ霜の
おきまどはせる 白菊の花 (凡河内躬恒)
百人一首でおなじみのこの歌でも、初霜に凛然と咲く菊の気品が伝わってきます。日本人の感性に合ったのでしょう、「春の桜」に対する「秋の菊」として日本を代表する花になりました。後鳥羽上皇が手回りの品に菊の紋を用いてから皇室の紋となり、日本の象徴となりました。
ヨーロッパには18世紀に中国から移入され、さらに幕末の日本から伝えられて人気のある花になりました。フランスなどの国では墓参の花として用いられ、洋菊として逆輸入され葬儀の際の献花に用いられています。アメリカで開発された大量栽培が可能な品種が用いられているのですが、消耗品扱いされて粗末にされているのを見ると悲しくなります。菊花は日本人の心映えを象徴する花だと思うのです。
祥雲寺の受け付け庫院の入り口には、今年も別井保行さんが持ってきてくれた鉢が並んでいます。一鉢で三輪ずつ、三鉢で計九輪の菊です。丹精の程が偲ばれる見事な大輪の花が参詣の方々を楽しませてくれています。
平成22年11月15日
祥雲寺住職 安藤明之
十八日の観音様の朝詣りは
午前6時半から行います。
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