疑いは人間にあり。天に偽りなきものを。
{能楽「羽衣」より}
「羽衣」は、数ある能楽の中でもきっての名曲です。明るく、すがすがしく。晴れ晴れとしてくもりがありません。
能の羽衣の舞台は、美保の松原です。白砂青松の浜辺、青々と広がる海の彼方には、富士の霊峰が聳え立つ。まさに日本有数の絶景です。白竜という名の漁師が松に掛けてあった美しい衣を見つけ自分のものにしようとします。そこに天女が現れて返してくれるよううったえます。漁師はなかなか返そうとはしないのですが、天女があまりに嘆き悲しむのを見て哀れに思い、天人の舞いを見せてくれるのを条件に返そうと告げます。しかし天女は、衣がなくては舞うことができない、まず返してほしいと言うのです。漁師は返してしまったらそのまま天に昇っていってしまうのではないかと疑いの言葉を投げかけます。冒頭の言葉はそれに対する天女の答えです。
「疑いの心は人間世界のものです。天界にはうそ偽りはありません。」
それを聞いた漁師は羽衣を返します。天女は約束通り舞楽を舞い富士の頂きを超え天上へと飛び去っていくのです。
羽衣伝説は各地にあり、男が羽衣を返さないで天女と夫婦になるというものが多いのですが、能「羽衣」の素晴らしさは、漁師が天女の言葉を信じるところにあります。人間を超えた存在に対する畏敬の思い、神仏への信頼が素直に表れています。
平成22年が始まりました。天上界だけでなく、私たちもお互いを信じあい、今年一年が晴れ晴れとしたものとなるよう祈っております。
平成22年1月14日 祥雲寺住職 安藤明之
十八日の観音様の朝参りは
午前6時半から行います。